取込契約と粒度|データエンジニアリング実践
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データエンジニアリング実践(中級・読む30分+演習40分)
この授業のゴール
- 取込契約(スキーマ・意味・粒度・キー・時刻・配送保証・変更手順)の項目を、具体的な値で書ける
- 受け取ったイベントを契約で検査し、合格・隔離・重複に分けて「入力件数=合格+隔離+重複」を確かめられる
- 粒度の違う表をそのまま足して起きる二重計上を、キーの一意性検査で見つけられる
- 契約の変更が後方互換か破壊的かを判定し、必要な手順(版の更新・移行期間)を選べる
仕事でどう使うか
データ基盤の仕事の多くは、他のチームが作ったデータを受け取るところから始まります。アプリ開発チームが購入イベントの項目名を amount から price に変えた翌朝、売上ダッシュボードが0円になる。明細ごとに送っていたイベントを注文ごとに変えたら、売上が半分になる。どちらもエラーは出ません。こうした事故を防ぐ取り決めが 取込契約(データ契約、data contract)です。
| 路線 | この授業が使われる成果物・意思決定 |
|---|---|
| DS(データサイエンティスト) | 売上・継続率などの指標の「1行は何か」「金額は税込か」を契約から確認し、分析の前提として報告書に書く |
| ML(機械学習エンジニア) | 特徴量の元データの型・欠損の約束を検査し、契約違反の行で学習・推論が黙って壊れるのを止める |
| DX(DX推進・AI企画) | 部門間で「誰が何をいつまでに、どの形で渡すか」を合意する文書として使い、変更時の連絡手順を決める |
| RS(研究者) | 共同研究でデータを受け取るとき、単位・時刻・識別子の定義を契約として残し、再現性を確保する |
この授業から6回で、遅延と重複を持つ購入イベントを取り込み、利用者へ毎日提供する小さな基盤を作ります。L01はその入口です。
前提
次の言葉を使います。不安があれば先に戻ってください。
- 測定単位と定義(金額は税込か、時刻はどの時差か)→ 測定単位と定義
- 重複と識別子(何が同じ1件かを決めるキー)→ 「重複と識別子」(有料版)
- スキーマと互換(項目の追加・削除が利用者に与える影響)→ 「スキーマと互換」(有料版)、検査の書き方は 「スキーマ検証」(有料版)
- ファクト表の粒度(1行が何を表すか)→ 「スター型とファクト粒度」(有料版)
- イベントデータ(起きた事実を消さずに積む記録)→ 「イベントデータ」(有料版)
この授業の Python は、画面内でそのまま実行できます。外部ライブラリは使わず、標準ライブラリの re(正規表現:文字列の形を調べる仕組み)だけを使います。
身近な状況:誰も間違えていないのに、売上が2倍になった
架空の通販アプリ「そらマート」では、アプリ開発チームが購入イベントを送り、データ基盤チームが受け取って日次売上を集計しています。ある日から、売上が前週の約2倍になりました。
調べると、アプリ側で次の変更がありました。
| 変更前(4月) | 変更後(5月) |
|---|---|
1イベント=決済1回。amount_jpy は注文全体の税込金額 |
1イベント=注文の明細1行。ただし amount_jpy には注文全体の金額をそのまま入れた |
2商品の注文(合計1,200円)で考えます。
| event_id | order_id | line_no | amount_jpy |
|---|---|---|---|
| e10-1 | o10 | 1 | 1200 |
| e10-2 | o10 | 2 | 1200 |
基盤チームは今までどおり SUM(amount_jpy) を計算し、2,400円と報告しました。正しくは1,200円です。アプリ側は「明細ごとに送るほうが便利」と考え、基盤側は「いつもどおり足しただけ」。どちらも自分の範囲では正しいのに、1行が何を表すか(粒度)の合意が文書になっていなかったことが原因です。
この授業では、このような食い違いを受け取る前に見つけるための取込契約と、受け取った後に機械で検査する方法を学びます。
直感的な説明:宅配の「受け取り条件」を先に決める
取込契約は、宅配便の受け取り条件に似ています。
- 箱の大きさと中身の書き方(スキーマ):項目名・型・必須かどうか
- 1箱に何を入れるか(粒度):1箱=1注文なのか、1商品なのか
- 伝票番号(キー):同じ荷物が2回届いても、伝票番号で1つとわかる
- いつ発送したか(イベント時刻)といつ届いたか(取込時刻)を別々に書く
- 再配達の約束(配送保証):「少なくとも1回は届ける。2回届くこともある」
- 条件を変えるときの連絡(変更手順):何日前に、誰に知らせるか
- 条件に合わない荷物の扱い(違反時の処理):捨てずに保管棚へ置き、送り主に連絡する
受け取る側は、届いた荷物を条件と照らして合格・保管棚(隔離)・二重配達(重複)に分けます。このとき、捨てた荷物があると後で数が合わなくなるので、「届いた数=合格+隔離+重複」が必ず成り立つように扱います。
たとえ話の限界:宅配と違い、データは一度受け取ると下流の多くの集計に一斉に流れます。1件の違反が、ダッシュボード・機械学習の特徴量・請求の数字に同時に広がる点が、契約を厳密にする理由です。
正確な定義:取込契約の項目と、粒度・キー・配送保証
取込契約(data contract)は、データを作る側(提供者)と使う側(利用者)が合意する、データの形と意味と運用の約束です。最低限、次の項目を具体的な値で書きます。
| 項目 | 書く内容 | そらマートの購入イベント v1 の例 |
|---|---|---|
| スキーマ | 項目名・型・必須 | event_id 文字列 必須、amount_jpy 整数 必須 ほか |
| 意味(セマンティクス) | 単位・税・符号・値の範囲 | 金額は税込の円、0以上。返金は event_type=refund と正の金額 |
| 粒度(grain) | 1行が表す単位 | 1行=決済1回(明細ではない) |
| キー | 1件を一意に決める項目 | event_id。再送でも同じ値を送る |
| 時刻 | 業務の時刻と時差 | event_time はISO 8601形式で時差つき(例 2026-05-01T10:00:00+09:00) |
| 配送保証 | 届き方の約束 | 少なくとも1回(at-least-once)。重複はあり得る |
| 遅延の上限 | 起きてから届くまで | 99%は1時間以内、最大72時間 |
| 変更手順 | 版と通知 | 破壊的変更は版を上げ、30日前に通知し、旧版と並行配信 |
| 違反時の処理 | 止めるか隔離か | 行単位で隔離表へ。隔離が1%を超えたら提供を保留 |
| 責任者 | 連絡先 | 提供者:アプリ開発チーム、利用者:データ基盤チーム |
(数値は架空の例です。実際の値は業務の要求と提供者の能力から合意して決めます。)
粒度の検査は、キーの一意性で行います。粒度が「決済1回」でキーが event_id なら、重複除去後の行数は event_id の種類数と一致するはずです。さらに「同じ order_id の行が複数ある」ことが契約上ありえないなら、order_id の重複も違反として検出できます。
配送保証の3分類を区別します。
| 名前 | 意味 | 利用者側がすべきこと |
|---|---|---|
| 高々1回(at-most-once) | 重複はないが、失われることがある | 欠落を件数照合で検出する |
| 少なくとも1回(at-least-once) | 失われないが、重複があり得る | キーで重複を除く |
| ちょうど1回(exactly-once) | 失われず重複もない | 実際には「少なくとも1回+冪等な書き込み」で実現することが多い(L03で扱う) |
変更の互換性:任意項目の追加は、既存の利用者が無視できるので後方互換です。項目名の変更・削除・型の変更・意味の変更(税抜→税込、粒度の変更)は破壊的変更で、版を上げて移行期間を設けます。そらマートの事故は、項目名は同じでも意味(粒度)が変わった破壊的変更でした。
段階付き例題:6件のイベントを契約で検査する
入力:アプリから届いた次の6件(到着順)。
| 到着順 | event_id | event_type | amount_jpy | event_time |
|---|---|---|---|---|
| 1 | e1 | purchase | 1200 | 2026-05-01T10:00:00+09:00 |
| 2 | e2 | purchase | "800"(文字列) | 2026-05-01T10:05:00+09:00 |
| 3 | e3 | purchase | 500 | 2026/05/01 10:07(時差なし) |
| 4 | e1 | purchase | 1200 | 2026-05-01T10:00:00+09:00(再送) |
| 5 | e4 | cancel | 300 | 2026-05-01T10:09:00+09:00 |
| 6 | e5 | purchase | 1200 | 2026-05-01T10:12:00+09:00 |
ステップ1:1件ずつ契約と照らす。e2 は金額が文字列なので型違反、e3 は時刻の書式違反、e4 は契約にない種類 cancel なので値の違反です。
ステップ2:違反した行は隔離する。捨てずに、元の行と理由を残します。後で提供者に「どの行が、なぜ」と伝えるためです。
ステップ3:合格した行から重複を除く。4番目の e1 は1番目と同じ event_id なので重複です。e5 は金額1,200円で e1 と同じですが、別の決済なので残します(金額が同じことは重複の理由になりません)。
ステップ4:件数を照合する。入力6=合格2(e1, e5)+隔離3(e2, e3, e4)+重複1。合格分の売上は 1,200+1,200=2,400円です。
ステップ5:意味を読む。隔離が6件中3件(50%)は、契約の「1%を超えたら提供を保留」を大きく超えます。売上2,400円を確定値として出さず、提供者へ連絡するのが正しい判断です。
import re
CONTRACT = {
"name": "purchase_events", "version": 1,
"grain": "1行 = 決済1回(注文の明細ではない)",
"key": "event_id",
"required": ["event_id", "event_type", "order_id", "amount_jpy", "event_time"],
"event_types": {"purchase", "refund"},
}
TIME_RE = re.compile(r"^\d{4}-\d{2}-\d{2}T\d{2}:\d{2}:\d{2}(Z|[+-]\d{2}:\d{2})$")
def check_record(rec):
"""1件のイベント(dict)を契約と照らし、違反理由のリストを返す。空なら合格"""
reasons = []
for f in CONTRACT["required"]:
if rec.get(f) in (None, ""):
reasons.append("missing:" + f)
a = rec.get("amount_jpy")
if a is not None:
if not isinstance(a, int) or isinstance(a, bool):
reasons.append("type:amount_jpy")
elif a < 0:
reasons.append("range:amount_jpy")
t = rec.get("event_type")
if t not in (None, "") and t not in CONTRACT["event_types"]:
reasons.append("enum:event_type")
ts = rec.get("event_time")
if ts not in (None, "") and not TIME_RE.match(str(ts)):
reasons.append("format:event_time")
return reasons
records = [
{"event_id": "e1", "event_type": "purchase", "order_id": "o1", "amount_jpy": 1200, "event_time": "2026-05-01T10:00:00+09:00"},
{"event_id": "e2", "event_type": "purchase", "order_id": "o2", "amount_jpy": "800", "event_time": "2026-05-01T10:05:00+09:00"},
{"event_id": "e3", "event_type": "purchase", "order_id": "o3", "amount_jpy": 500, "event_time": "2026/05/01 10:07"},
{"event_id": "e1", "event_type": "purchase", "order_id": "o1", "amount_jpy": 1200, "event_time": "2026-05-01T10:00:00+09:00"},
{"event_id": "e4", "event_type": "cancel", "order_id": "o4", "amount_jpy": 300, "event_time": "2026-05-01T10:09:00+09:00"},
{"event_id": "e5", "event_type": "purchase", "order_id": "o5", "amount_jpy": 1200, "event_time": "2026-05-01T10:12:00+09:00"},
]
accepted, quarantined, dup = [], [], 0
seen = set()
for rec in records:
reasons = check_record(rec)
if reasons:
quarantined.append((rec["event_id"], reasons))
elif rec["event_id"] in seen:
dup += 1
else:
seen.add(rec["event_id"]); accepted.append(rec)
print("合格:", [r["event_id"] for r in accepted])
print("隔離:", quarantined)
print("重複:", dup)
print("照合:", len(records), "=", len(accepted), "+", len(quarantined), "+", dup)
print("売上:", sum(r["amount_jpy"] for r in accepted), "円")
print("隔離率:", round(len(quarantined) / len(records) * 100, 1), "%")
check_record(rec) は辞書 rec を受け取り、違反理由の文字列のリスト(例 ["type:amount_jpy"])を返す関数です。空のリストなら合格です。TIME_RE.match(文字列) は、時刻が「年-月-日T時:分:秒+時差」の形のときだけ一致します。
操作して理解する:粒度が変わったことを機械で見つける
冒頭の事故(1行=明細に変わった)を、キーの一意性で検出します。下のコードは、同じ order_id が何回出てくるかを数え、契約「1行=決済1回(同じ注文は1行)」に反する注文を報告します。
from collections import Counter
april = [
{"event_id": "e1", "order_id": "o1", "amount_jpy": 1200},
{"event_id": "e2", "order_id": "o2", "amount_jpy": 800},
]
may = [
{"event_id": "e10-1", "order_id": "o10", "line_no": 1, "amount_jpy": 1200},
{"event_id": "e10-2", "order_id": "o10", "line_no": 2, "amount_jpy": 1200},
{"event_id": "e11-1", "order_id": "o11", "line_no": 1, "amount_jpy": 500},
]
def grain_report(rows):
c = Counter(r["order_id"] for r in rows)
multi = {k: v for k, v in c.items() if v > 1}
new_fields = sorted(set().union(*[r.keys() for r in rows]) - {"event_id", "order_id", "amount_jpy"})
return {"rows": len(rows), "orders": len(c), "multi_row_orders": multi, "unknown_fields": new_fields}
print("4月:", grain_report(april))
print("5月:", grain_report(may))
print("5月の単純合計:", sum(r["amount_jpy"] for r in may), "円")
print("注文ごとに1回だけ数えた合計:", sum({r["order_id"]: r["amount_jpy"] for r in may}.values()), "円")
出力では、5月に multi_row_orders が {'o10': 2}、unknown_fields が ['line_no'] になります。単純合計は2,900円、注文ごとに1回だけ数えると1,700円です。
試してみましょう。
mayの o10 の2行目を消すと、multi_row_ordersは空になります。粒度の検査は「重複がない」ことしか確かめられないので、契約の文書と、知らない項目(line_no)の出現の両方を監視します。- 「注文ごとに1回だけ数える」直し方は、各行の金額が注文全体の金額だという前提に依存します。明細ごとの金額が入っていれば逆に過小になります。どちらが正しいかはデータからは決められず、提供者に確認するしかありません。これが、契約を文書で持つ理由です。
発展:契約をどこで、どう強制するか
契約の検査は、置く場所によって効果が変わります。
| 置き場所 | 長所 | 限界 |
|---|---|---|
| 提供者の開発工程(テストや自動確認) | 破壊的変更をリリース前に止められる | 提供者の協力が必要。意味の変更(税込→税抜)は型では検出できない |
| 取込の入口(この授業の方法) | 利用者だけで導入できる。違反を隔離できる | 受け取った後なので、提供者の修正を待つ間は不完全なデータになる |
| 集計の後(件数・金額の監視) | 粒度の変化など、行単位では見えない異常を検出できる | 原因の特定に時間がかかる |
実務では3か所を組み合わせます。
スキーマレジストリ(schema registry)は、イベントの型定義を版ごとに登録し、新しい版が古い版と互換かを自動判定する仕組みです。互換の向きには「新しい読み手が古いデータを読める(後方互換)」「古い読み手が新しいデータを読める(前方互換)」があり、どちらを要求するかは誰が先に更新するかで決めます。JSON Schema、Avro、Protocol Buffers などの形式が使われます(具体的な製品の機能は執筆時点(2026年)の一般的な説明です。最新は各製品の公式情報で確認してください)。
行単位の隔離と全体の停止の使い分け:1行の書式違反は隔離で十分ですが、「必須項目が全行で欠けている」「粒度が変わった」は全体の意味が変わっているので、提供を止めるほうが安全です。L05で、隔離率の閾値による提供判断を扱います。
限界:契約は「何を約束したか」を明確にしますが、提供者が約束どおりに送っているか(例:金額が本当に税込か)は検査だけでは保証できません。定期的に元の業務システムの数字と照合する(L04)ことが必要です。
よくある失敗
失敗1:契約違反の行を黙って捨て、件数が合わなくなる
rows = [{"id": "a", "amount": 100}, {"id": "b", "amount": "x"}, {"id": "c", "amount": 300}]
# 誤り:変換できない行を try/except で無言で飛ばす
clean = []
for r in rows:
try:
clean.append({"id": r["id"], "amount": int(r["amount"])})
except ValueError:
pass
print("誤り:", len(clean), "件, 合計", sum(r["amount"] for r in clean))
# 正しい:理由とともに隔離し、件数を照合する
ok, bad = [], []
for r in rows:
(ok if isinstance(r["amount"], int) else bad).append(r)
print("正しい:合格", len(ok), "隔離", len(bad), "入力", len(rows), "一致:", len(ok) + len(bad) == len(rows))
誤りの版は「2件、合計400円」とだけ出力し、b が消えたことは誰にもわかりません。翌月に b が1万円の注文だったと判明しても、どこで消えたか追えません。直し方:違反は理由つきで隔離表に残し、「入力=合格+隔離+重複」を毎回照合する。
失敗2:重複を内容(金額や顧客)で判定し、本物の購入を消す
rows = [
{"event_id": "e1", "customer": "c1", "amount": 1200},
{"event_id": "e1", "customer": "c1", "amount": 1200}, # 再送
{"event_id": "e2", "customer": "c1", "amount": 1200}, # 同じ客が同じ金額をもう一度購入
]
by_content = {(r["customer"], r["amount"]) for r in rows}
by_key = {r["event_id"]: r for r in rows}
print("内容で重複除去:", len(by_content), "件", sum(a for _, a in by_content), "円")
print("キーで重複除去:", len(by_key), "件", sum(r["amount"] for r in by_key.values()), "円")
内容で判定すると1件1,200円、キーで判定すると2件2,400円です。同じ人が同じ金額の商品を2回買うことは普通に起きます。直し方:重複の判定は契約で決めたキー(event_id)だけで行う。提供者が再送でも同じ event_id を送ることを契約に書く。
失敗3:粒度の違う表をそのまま足して二重計上する
注文の粒度の金額(注文合計)が、明細の粒度の行に繰り返し入っている表を、そのまま sum します。
lines = [ # 1行 = 明細。order_total は注文全体の金額を繰り返している
{"order_id": "o1", "line_no": 1, "order_total": 1200},
{"order_id": "o1", "line_no": 2, "order_total": 1200},
{"order_id": "o2", "line_no": 1, "order_total": 500},
]
wrong = sum(r["order_total"] for r in lines)
right = sum({r["order_id"]: r["order_total"] for r in lines}.values())
print("誤り:", wrong, "円 正しい:", right, "円")
誤りは2,900円、正しくは1,700円です。直し方:足す量がどの粒度で定義されているか(注文合計は注文の粒度)を契約に書き、集計前に「キーの一意性」を検査する。一意でなければ、まず注文の粒度へまとめてから足す(「結合前の集計」(有料版))。
失敗4:時差のない時刻を受け入れ、日付の境界でずれる
"2026-05-01 00:30" のように時差がない時刻は、日本時間なのか協定世界時(UTC)なのか決められません。日本時間の5月1日0時30分は、UTCでは4月30日15時30分です。日本時間として解釈してUTCの日付で集計すれば月をまたいで4月の売上に入り、UTCとして解釈すれば5月1日の売上になります。解釈の仕方で月が変わってしまいます。
直し方:契約で「時差つきのISO 8601形式」を必須にし、時差のない時刻は format:event_time で隔離する。基盤の内部ではUTCにそろえて保存し、日次集計の「1日」は日本時間かUTCかを提供仕様に明記する。
まとめ
- 取込契約は、スキーマ・意味・粒度・キー・時刻・配送保証・遅延の上限・変更手順・違反時の処理・責任者を具体的な値で合意した文書。
- 粒度(1行の意味)は型では検出できない。キーの一意性と未知の項目の出現で機械的に監視する。
- 違反行は捨てずに理由つきで隔離し、「入力=合格+隔離+重複」を毎回照合する。
- 少なくとも1回の配送では重複が届く。重複はキーで判定し、内容(金額・顧客)では判定しない。
- 名前・型が同じでも意味が変われば破壊的変更。版を上げ、通知と移行期間を設ける。
用語
- 取込契約(データ契約)(data contract)
データの提供者と利用者が合意する、スキーマ・意味・粒度・キー・配送保証・変更手順・違反時の処理などの約束。
- 配送保証(delivery guarantee)
メッセージが何回届くかの約束。高々1回・少なくとも1回・ちょうど1回の3種類で表す。
- 隔離(検疫)(quarantine)
契約違反の行を捨てずに別の表へ理由つきで保管し、後で確認・再処理できるようにすること。
- 破壊的変更(breaking change)
既存の利用者の処理や結果の意味を壊す変更。項目の改名・削除・型の変更・意味や粒度の変更など。
- スキーマレジストリ(schema registry)
イベントの型定義を版ごとに登録し、新旧の版の互換性を自動で判定する仕組み。
よくある質問
取込契約は、なぜ文書にする必要があるのですか? 型の検査だけでは足りませんか?
型の検査では「金額が税込か」「1行が決済か明細か」といった意味を確かめられません。冒頭の事故は型も項目名も同じでした。意味は文書で合意し、型や一意性は機械で検査する、という役割分担が必要です。
データ辞書やスキーマ定義とは何が違うのですか?
データ辞書(データ辞書)は項目の意味の説明、スキーマは型の定義です。取込契約はそれらに加えて、粒度・キー・配送保証・遅延の上限・変更手順・違反時の処理・責任者という運用の約束を含みます。誰が何をしたら契約違反かが決まる点が違います。
違反した行は、基盤側で直して取り込んではいけないのですか?
書式の統一(時差の変換など)を契約で「基盤側が行う」と決めているなら構いません。決めていない修正を黙って行うと、提供者は誤りに気づかず直さないままになり、修正規則が基盤側にだけ増えていきます。原則は隔離して提供者に伝え、修正したら版つきの規則として記録します。
配送保証が「ちょうど1回」の基盤なら、重複除去は不要ですか?
不要にはなりません。「ちょうど1回」はある区間(例:メッセージ基盤から書き込み先まで)の約束であることが多く、アプリが送信に失敗して再送するなど、その手前で生まれた重複は防げません。キーによる重複除去は安価な保険として残します。
隔離が多いとき、提供を止めるか、合格分だけで提供するか、どう判断しますか?
隔離率の閾値と、隔離がどこに偏っているかで判断します。全体の0.1%で特定の端末だけなら合格分で提供し注記する、5%を超えるか売上の大きい部分に偏るなら保留する、といった基準を契約に事前に書いておきます。L05で詳しく扱います。
提供者が契約を守ってくれないときはどうしますか?
違反の件数・例・影響(どの指標がいくらずれたか)を数字で示し、責任者に連絡します。契約に違反時の連絡手順と対応期限を書いておくと、個人間の交渉にならずに済みます(「部門間の合意」(有料版))。
確認問題
問1 そらマートで、アプリ側が「1イベント=決済1回」を「1イベント=明細1行(金額は注文全体)」に変えた。項目名と型は同じである。この変更の分類として正しいのはどれか。
- ① 任意項目の追加なので後方互換
- ② 項目名が同じなので互換性に影響しない
- ③ 粒度という意味の変更なので破壊的変更
- ④ 型が同じなので前方互換
解答と解説
正解:③
粒度が変わると、同じ集計式(SUM)の結果の意味が変わります。型や名前が同じでも破壊的変更で、版を上げて通知すべきです。
問2 配送保証が「少なくとも1回(at-least-once)」の取込で、利用者側が必ず行うべき処理はどれか。
- ① キー(event_id)による重複除去
- ② 金額と顧客IDが同じ行の削除
- ③ 到着時刻の新しい行だけを残す
- ④ 何もしなくてよい
解答と解説
正解:①
少なくとも1回は「失われないが重複し得る」約束です。契約で決めたキーで重複を除きます。
問3 入力100件を契約で検査した結果、合格90件、隔離6件、重複2件だった。最も適切な判断はどれか。
- ① 問題ないので、そのまま提供する
- ② 2件がどこにも記録されずに消えているので、処理を調べる
- ③ 隔離6件を合格に直して提供する
- ④ 重複2件を合格に戻す
解答と解説
正解:②
90+6+2=98で、入力100と一致しません。どこかで2件が黙って捨てられています。
問4 契約で「金額は0以上の整数」と定めた。次のうち隔離すべき値はどれか。
- ① 0
- ② 1200
- ③ "1200"(文字列)
- ④ 35000
解答と解説
正解:③
文字列は整数ではないので型違反です。0は有効な値で、欠損とは別物です。
問5 粒度が「1行=決済1回」の表で、粒度が守られているかを機械的に確かめる方法として最も適切なのはどれか。
- ① 金額の合計が前日と近いか見る
- ② 重複除去後の行数と event_id の種類数が一致し、同じ order_id が複数行にないか確かめる
- ③ 列の数が契約と同じか確かめる
- ④ NULL の数を数える
解答と解説
正解:②
粒度はキーの一意性で検査します。合計の変動や列数では、明細単位への変化を確実には捉えられません。
問6 次の契約変更のうち、後方互換(既存の利用者がそのまま読める)といえるのはどれか。
- ① amount_jpy を price_jpy に改名する
- ② amount_jpy を税込から税抜に変える
- ③ 任意項目 coupon_code を追加する
- ④ event_time を時差なしの形式に変える
解答と解説
正解:③
任意項目の追加は、既存の利用者が無視すれば今までどおり処理できます。
次に学ぶこと
次の CDCとイベント時刻 では、業務システムのデータベースの変更(追加・更新・削除)をイベントとして取り込む CDC と、イベント時刻・取込時刻の扱いを学びます。
戻って確認するなら、重複とキーは 「重複と識別子」(有料版)、スキーマの互換は 「スキーマと互換」(有料版)、受入基準の作り方は 「受入基準」(有料版) です。モジュール全体の流れは データエンジニアリング実践 を参照してください。
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