文字式と代入|算数から数式への橋渡し

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算数から数式への橋渡し(初級・読む22分+演習28分)

この授業のゴール

仕事でどう使うか

「売上が1個増えるごとに、利益はいくら増えるのか」「注文が100件になったら、費用はいくらか」。状況が変わるたびに電卓で計算し直す代わりに、文字を使った式を1つ作れば、数を入れるだけで答えが出ます。

路線 この授業の使いどころ
DS(データサイエンティスト) KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の計算式を、文字で定義して再利用する
ML(機械学習エンジニア) 予測式 $y = ax + b$ の $a, b$ や、損失の式を読み、数を代入して手で検算する
DX(DX推進・AI企画) 費用対効果の試算を、件数や単価を変えられる式で作る。損益分岐点の分析の土台
RS(研究者) 論文の数式に数を代入して、記号の意味と単位を確認する。再現の第一歩

成果物でいえば、試算表(スプレッドシートの式)、プログラムの関数、論文や仕様書の数式がこの授業の対象です。「数式を見て固まる」のをやめて、文字の意味を書き出し、数を入れて動かす習慣が、実務で最も役立ちます。

前提

次の言葉を使います。不安があれば先に戻ってください。

Pythonのコードは、画面内で実行できます。変数(値に付けた名前)は、数学の文字とよく似ています。

身近な状況:注文数が変わるたびに計算し直す

手作りキャンドルの店(架空)が、月の利益を試算します。

「30個売れたら利益はいくらか」を電卓で計算すると、売上 $1200\times30=36000$ 円、費用 $10000+700\times30=31000$ 円、利益 $36000-31000=5000$ 円です。次に「40個なら?」「25個なら?」と聞かれるたびに、同じ手順を繰り返します。

売上の個数を $q$(quantity)という文字にして、一度だけ式を作っておけば、$q$ に30、40、25を入れるだけです。文字は、変わる量や、まだ決まっていない量に付けた名前です。今回の式を後で完成させ、次の授業で損益分岐点を求めます。

直感的な説明:文字は「空欄」に付けた名前

作文のテンプレートを考えます。「( )個売ると、利益は( )円」。空欄に名前を付けて、「$q$ 個売ると、利益は $L$ 円」にします。

文字式は、こうした空欄付きの計算手順です。「売価 × 個数」という手順を $pq$ と書き、「売価」に1200、「個数」に30を入れれば、$1200 \times 30$ が実行されます。

プログラムの変数と同じ発想です。price * qty と書いておけば、price と qty の値を変えるたびに結果が変わります。

文字式を読むときの手順は3つです。

  1. 文字の意味を書く(売価、個数など)。
  2. 単位を書く(円/個、個、円)。
  3. 数を入れて、結果の意味を言う。

この3つを習慣にすると、どんな式でも怖くなくなります。

たとえ話の限界:「空欄」のたとえでは、文字は1つの値を入れる箱です。しかし方程式では、$x$ は「ある条件を満たす、まだわからない1つの値」(未知数)として扱います。次の節で用語を整理し、方程式と不等式 で未知数を求めます。

正確な定義:文字式の約束と代入

文字式の約束:

約束 例
掛け算の記号 × は省略する $p \times q = pq$、$2 \times a = 2a$
数字を文字の前に書く $a \times 3 = 3a$($a3$ とは書かない)
割り算は分数で書く $a \div b = \dfrac{a}{b}$
同じ文字の項は、まとめられる(同類項) $3a + 2a = 5a$、$3a+2b$ はこれ以上まとめられない
括弧の前が引き算のとき、括弧を外すと中の符号が反転する $-(F + vq) = -F - vq$

用語の整理:

同じ文字 $q$ でも、「いろいろな値を入れて表を作る」ときは変数、「$L=0$ となる $q$ を求める」ときは未知数です。文字の役割は、問いによって変わります。

代入は、文字を数に置き換えて値を求めることです。記号の意味を先に決めます。

文字 意味 単位 本文の値
$p$ 売価(1個の価格) 円/個 1200
$v$ 変動費(1個当たりの費用) 円/個 700
$F$ 固定費(月間) 円 10000
$q$ 売れた個数 個 変数
$L$ 利益 円 求める量

利益 = 売上 − 総費用 です。売上は $pq$、総費用は $F + vq$ なので、

$$L = pq - (F + vq) = pq - F - vq = (p - v)q - F$$

最後の変形では、$pq - vq$ を $q$ でくくっています($p$ と $v$ の差に $q$ を掛けた形)。単位の検算:$p-v$ は「円/個」、$q$ は「個」なので、$(p-v)q$ は「円」、$F$ も「円」。引き算ができる単位です。

代入の例:$p=1200,\ v=700,\ F=10000,\ q=30$ のとき、

$$L = (1200-700)\times30 - 10000 = 500\times30 - 10000 = 15000-10000 = 5000\ (\text{円})$$

負の数を代入するときは、必ず括弧を付けます。$x=-3$ のとき $x^2$ は $(-3)^2=9$ です。$-3^2$ と書くと $-9$ と読まれます(四則計算と計算順序)。

段階付き例題:利益の式を作り、表にして意味を読む

問題:キャンドル店の月間利益 $L$ を、販売個数 $q$ の式で表し、$q$ が0、10、20、30、40のときの値を表にして、読み取れることを言え。

ステップ1:文字と単位を決める。上の表のとおり。

ステップ2:売上と費用の式を別々に作る。売上 $R = pq$(円)。総費用 $C = F + vq$(円)。

ステップ3:利益の式にする。$L = R - C = pq - F - vq = (p-v)q - F$。

ステップ4:数を代入する。$p-v=500$ なので $L = 500q - 10000$。

$q$(個) $500q$(円) $L = 500q-10000$(円)
0 0 −10,000
10 5,000 −5,000
20 10,000 0
30 15,000 5,000
40 20,000 10,000

ステップ5:結果を読む。

ステップ6:検算する。$q=30$ で、売上 $1200\times30=36000$、費用 $10000+700\times30=31000$、差は5000円。式の値と一致します。

操作して理解する:式を関数にして、数を入れ替える

この式をPythonの関数にします。関数は、入力(引数)を受け取って結果(戻り値)を返す部品です。

def profit(q, p=1200, v=700, F=10000):
    # 個数qのときの利益(円)を返す
    revenue = p * q          # 売上
    cost = F + v * q         # 総費用
    return revenue - cost

for q in [0, 10, 20, 30, 40]:
    print(q, profit(q))

print("変動費が800円のとき、30個:", profit(30, v=800))
print("売価が1500円のとき、30個:", profit(30, p=1500))

次は、負の数の代入を確かめます。

x = -3
print(x ** 2)           # 9
print(-x ** 2)          # -9: 先に x**2 を計算してから符号を反転
print(2 * x + 1)        # -5
print(3 * x ** 2 - 2 * x + 4)   # 27 + 6 + 4 = 37

数学の式 $3x^2-2x+4$ に $x=-3$ を代入すると、$3\times9-2\times(-3)+4=27+6+4=37$ です。コードの結果と一致しています。

発展:式の変形、くくり出し、プログラムの = との違い

くくり出し:$pq - vq = (p-v)q$ は、分配法則($a(b+c)=ab+ac$)を逆向きに使った変形です。意味は、「1個売るごとに増える利益(貢献利益=売価−変動費)に個数を掛ける」です。式の形が変わると、読み取れる意味が変わります。利益の式を $(p-v)q - F$ と書くと、「貢献利益で固定費を回収する」という構造が見えます。

添字(そえじ):$x_1, x_2, \ldots$ のように、小さな数字を付けて複数の値を区別します。$y_i$ は $i$ 番目のデータです。$\sum_{i=1}^{n} y_i$ は $y_1+y_2+\cdots+y_n$ の意味です(負数・絶対値・数直線 の MAE の式)。

数学の = とプログラムの = は違う:数学の $L = (p-v)q - F$ は「左と右が等しい」という主張です。Pythonの L = (p - v) * q - F は、「右の値を計算して、左の名前に入れる」という操作(代入文)です。q = q + 1 は数学の等式としては成り立ちませんが、プログラムでは「今の q に1を足して、q に入れ直す」意味になります。比較は == です。

次元の確認:式の両辺や、足し引きする項は、同じ単位でなければなりません。もし $L = pq - F - v$ のように個数を掛け忘れた式を書くと、$v$(円/個)を円から引くことになり、単位が合いません。「単位が合わない式は間違っている」は強力な検算です。

よくある失敗

失敗1:負の数を代入するとき、括弧を付けない

誤った例:$y=x^2+2x$ に $x=-3$ を代入して、$-3^2+2\times3$ などと書き写し、結果を $-9+6=-3$ とした。

x = -3
print(x ** 2 + 2 * x)         # 正しい: 9 + (-6) = 3
print(-3 ** 2 + 2 * 3)        # 誤り: -9 + 6 = -3 (符号も数も違う)

正しくは $(-3)^2+2\times(-3)=9-6=3$。代入は「文字を、括弧付きの数に置き換える」と考えます。直し方:文字の位置に括弧を書いてから数を入れます。$y=(\ \ )^2+2(\ \ )$ に $-3$ を入れる、と作業を分けます。

失敗2:単位がそろっていない量を同じ式に入れる

誤った例:売価と変動費は「円」、固定費は「千円」(10千円=10,000円)で管理していたのに、数だけを見て $F=10$ を代入した。

p, v, q = 1200, 700, 30
print((p - v) * q - 10)       # 誤り: 14990 (固定費10円として計算)
print((p - v) * q - 10000)    # 正しい: 5000

利益が14,990円と、実際より約1万円も大きくなります。式に入れる前に、すべての量を同じ単位(円)にそろえます。表に単位列を作り、代入前に確認する習慣が有効です。

失敗3:括弧を外すとき、中の符号を反転し忘れる

誤った例:$L = pq - (F + vq)$ を、$L = pq - F + vq$ と変形した。

p, v, F, q = 1200, 700, 10000, 30
print(p * q - (F + v * q))     # 正しい: 5000
print(p * q - F + v * q)       # 誤り: 47000

「−(F + vq)」は、F と vq を両方とも引く意味です。括弧を外すと $-F-vq$。符号を反転し忘れると、$v q$ が「引く」から「足す」に変わり、利益が約9倍にも見えます。直し方:変形したら、必ず数を代入して元の式と同じ値になるか確認します。

まとめ

用語

文字式(algebraic expression)

数の代わりに文字を使って量の関係を表した式。文字に数を入れて値を求められる。

代入(substitution)

式の文字を具体的な数に置き換えて、式の値を求めること。負の数は括弧付きで入れる。

変数・定数・未知数(variable / constant / unknown)

変数は値が変わる量、定数は決まった値、未知数は求めたい未知の値。同じ文字でも問いによって役割が変わる。

変動費と固定費(variable cost / fixed cost)

変動費は作る数や売る数に比例する費用、固定費は数に関係なくかかる費用。

同類項(like terms)

文字の部分が同じ項。3a と 2a は同類項で、まとめて 5a にできる。

よくある質問

なぜ数学では文字を使うのですか?

同じ計算手順を、数だけ入れ替えて何度も使うためです。文字式を1つ作れば、売価や個数が変わっても再計算が楽になり、式の構造(何が何に比例するか)も読み取れます。

$x$ と $q$ のように、使う文字に決まりはありますか?

ありません。ただし、意味を連想できる文字(price の $p$、quantity の $q$)にすると読みやすくなります。実務では、文字の意味と単位を式の近くに必ず書いておきます。

代入するときに括弧を付けるのはなぜですか?

負の数や式を代入すると、計算順序が変わるからです。$x^2$ に $x=-3$ を入れるとき、$(-3)^2=9$ と $-3^2=-9$ が別の値になります。括弧を付ければ、数が1つのまとまりとして扱われます。

変動費と固定費の違いは、実務でどう判断しますか?

「作る数や売る数に比例して増えるか」で判断します。材料費・梱包費は変動費、家賃・サイト利用料・正社員の給与は固定費の扱いが一般的です。ただし、ある範囲を超えると固定費が増える場合(段階的固定費)もあるので、期間と範囲を決めて分類します。

文字式の計算が合っているか、どう確かめますか?

①単位が合っているか、②簡単な数(0や1)を代入して意味が通るか、③元の式と変形後の式に同じ数を代入して同じ値か、の3つが基本です。コードに写して、手計算と同じ結果になるかも確認します。

プログラムの変数と数学の文字は同じですか?

似ていますが、同じではありません。プログラムの変数は、値を保存する箱で、あとから q = q + 1 のように書き換えられます。数学の文字は、式の中の役割(変数・定数・未知数)を表します。

確認問題

問1 次の式を最も簡単にまとめたものはどれか。 $3a + 2a + 4b$

  1. ① $9ab$
  2. ② $5a + 4b$
  3. ③ $9a$
  4. ④ $5a4b$
解答と解説

正解:②

同じ文字の項 $3a+2a=5a$ だけをまとめます。$4b$ は別の文字なのでそのままです。

問2 $y = x^2 + 2x$ に $x=-3$ を代入した値はどれか。

  1. ① 3
  2. ② -15
  3. ③ 15
  4. ④ -3
解答と解説

正解:①

$(-3)^2+2\times(-3)=9-6=3$。負の数は括弧付きで代入します。

問3 $p=1200$(円/個)、$q=30$(個)のとき、$pq$ の単位はどれか。

  1. ① 円×個
  2. ② 個
  3. ③ 円/個
  4. ④ 円
解答と解説

正解:④

円/個 × 個 の「個」が約分されて、円になります。

問4 利益 $L=(p-v)q-F$ で、$q=0$ のときの意味として正しいのはどれか。

  1. ① 利益は0円になる
  2. ② 利益は $-F$ で、固定費ぶんの赤字になる
  3. ③ 利益は $p-v$ になる
  4. ④ 式が使えない
解答と解説

正解:②

$q=0$ を代入すると $L=0-F=-F$。1個も売れなくても固定費はかかるので、赤字です。

問5 総費用が $F+vq$ のとき、利益 $pq-(F+vq)$ の括弧を外した式として正しいのはどれか。

  1. ① $pq-F+vq$
  2. ② $pq+F-vq$
  3. ③ $pq-F-vq$
  4. ④ $pq+F+vq$
解答と解説

正解:③

括弧の前が引き算なので、中の項はすべて符号を反転します。$-(F+vq)=-F-vq$。

問6 文字 $q$ の役割について、正しい説明はどれか。

  1. ① 表を作るときは変数、利益が0になるqを求めるときは未知数として扱う
  2. ② 式の中で、q は常に変数である
  3. ③ q は必ず整数で、小数になることはない
  4. ④ q に単位は不要である
解答と解説

正解:①

同じ文字でも、問いによって役割が変わります。値を動かすなら変数、条件から求めるなら未知数です。

次に学ぶこと

次は 方程式と不等式 で、利益の式を使って「利益が0になる個数」(方程式)と「黒字になる個数」(不等式)を求めます。

この授業の確認問題だけで習得とはしません。ON05 の総合テストと、損益分岐点の課題で判定します。括弧や符号の復習は 四則計算と計算順序、負数・絶対値・数直線 です。

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